京都の景観条例は厳しい?ルールを「京都らしさ」に変える家の建て方

京都の景観条例は厳しい?ルールを「京都らしさ」に変える家の建て方 | 京都の暮らし方

京都で家を建てる。

そう考えたとき、多くの方が「景観条例」という言葉を意識するのではないでしょうか。

「ルールが厳しくて、思い通りの家は建てられないかもしれない」

計画を進める前から、そんな不安を感じるかもしれません。

しかし、景観条例はあなたの家づくりを縛るためだけにあるのではありません。

ルールを正しく理解し、京都の気候や土地といった特有の条件と合わせて考えることで、むしろ京都でしか実現できない、価値ある住まいをつくることができます。

この記事では、景観条例の基本から、京都の家づくりで本当に考えるべきこと、そしてそれらを解決するための具体的な設計の考え方まで、京都で家づくりを手がけてきた工務店の視点から具体的にお伝えします。

この記事でわかること
  • 家づくりで押さえておくべき景観条例の主なルール
  • 自分の土地がどのエリアにあたるかの調べ方
  • 条例の他に、京都で家を建てる際に考えるべき3つの「条件」
  • 厳しい制約を「京都らしい価値」に変えるための設計の考え方
  • 「景観」と「心地よさ」を両立させた家づくりの実例
この記事を書いた人
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片山 善晴

京都府拠点の株式会社片山工務店代表取締役/1969年京都生まれ。大阪工業大学建築学科卒業後、ゼネコンにて大規模建築の現場管理、阪神大震災復興を経験。1997年片山工務店入社、2004年より現職。設計・現場管理担当/一級建築施工管理技士、二級建築士、エコハウスマイスター保有/ 「不易流行」を信念に、伝統技術と新技術を融合させ、顧客一人ひとりの夢や想いを形にすることを使命とする。建築を通じた地域社会への貢献を目指す。

京都の景観条例、家づくり前に知っておきたい基本

なにはともあれ、まずは家づくりの前提となるルールを正確に見ていきましょう。

条例が目指すものから、具体的な規制、手続きの流れまで、順を追って解説します。

条例が目指すのは「京都の美しい街並み」を1000年先の未来へつなぐこと

京都市の景観条例は、単に建物のデザインを縛るためのものではありません。

私たちが愛する「京都の美しい街並み」を、1000年先の未来まで守り継いでいく。

そのための、大切な約束事です。

2007年に「新景観政策」として本格的に始まったこの条例は、バブル期以降に増えてしまった、歴史ある街並みと調和しない建物への反省から生まれました。

市民や専門家の「京都らしさを守りたい」という強い想いが形になったものであり、街の景観という共有財産を、みんなで守り育てていくための仕組みなのです。

あなたの土地は対象?指定区域をウェブで確認する方法

「自分の土地も規制の対象になるんだろうか?」

これは、家づくりを考える上で最初に確かめておくべき点です。

京都市では、市内のほぼ全域が何らかの景観計画区域に指定されており、場所によって守るべきルールが変わります。

主なエリアは以下の通りです。

美観地区・美観形成地区 特に優れた景観を守るため、厳しい基準が設けられているエリア。
風致地区 自然の風景と市街地が一体となった景観を守るエリア。
歴史的風土保存区域 寺社仏閣など、歴史的な建造物とその周辺環境を一体で保存するエリア。
沿道型美観地区 主要な通りの沿道景観を整えるためのエリア。 

これらのエリアは複雑に重なり合っているため、ご自身の建築予定地がどの区域にあたるのかを正確に知らなくてはいけません。

京都市が提供しているウェブサイト「京都市都市計画情報等検索システム」を使えば、住所や地図から誰でも簡単に調べられます。

操作説明はこちら https://keikan-gis.city.kyoto.lg.jp/webgis/help/keikan-gis_help.pdf

まずはこちらで、ご自身の土地にどんなルールがあるかを確認しましょう。

家づくりで特に知っておきたい、景観条例の主な規制4つ

それでは、実際に家づくりに関わる主な規制内容を見ていきましょう。

ここでは特に重要な4つのポイントに絞って解説します。

規制1:京都の空を守る「高さ」のルール

京都の広々とした空の景観を守るため、建物の高さには厳しい制限があります。

たとえば、都心部の美観地区では高さが15mや10m以下に制限されることもあり、一般的な3階建の住宅でも計画には注意が必要です。

ここで大切なのは、建築基準法で許される高さと、景観条例で定められる高さは別だという点です。

「法律上は問題ない高さなのに、景観条例で計画が見直しに…」という事態を避けるためにも、事前の確認が欠かせません。

規制2:街並みに馴染む「屋根」の形と素材

屋根は、建物の印象を大きく左右し、京都らしい街並みを形づくる重要な部分です。

そのため、切妻屋根や寄棟屋根といった、日本の伝統的な家の形が推奨されています。

また、屋根の勾配や軒の出(壁から突き出た屋根の部分)の長さにまで基準が設けられている場合もあります。

最近よく使われるガルバリウム鋼板などの金属屋根も使用できますが、その場合は光の反射を抑えた、落ち着いた色合いのものを選ぶ必要があります。

太陽光パネルを設置する際も、パネルの色を黒にしたり、道路から見えにくい場所に置いたりといった配慮が求められます。

規制3:街並みに品格を与える「外壁」の色と素材

外壁や窓、玄関ドアなどの色や素材も、周辺の景観と調和させることが求められます。

京都市が定める「景観色彩ガイドライン」では、白、グレー、茶系といった落ち着いた色が基本です。

彩度の高い赤や青などの原色や、光沢が強いピカピカした金属質の素材は使うことができません。

これは新築に限った話ではなく、外壁の塗り替えのようなリフォームでも届出が必要です。

「せっかく綺麗に塗り替えたのに、色が条例に合わずやり直しに…」とならないよう、必ず事前に確認しましょう。

規制4:住まいの顔となる「塀や門」のデザイン

建物だけでなく、塀や門、ガレージといった敷地内のものも景観条例の対象です。

コンクリートブロックを積み上げただけの塀はあまり使われず、緑の生垣や、伝統的な意匠の木製・竹製の格子塀などが勧められています。

エリアによっては、塀の高さが1.2m以下に制限されたり、自然素材に限定されたりすることもあります。

また、店舗を併設する場合の看板はもちろん、住宅の表札や照明についても、大きさやデザイン、明るさに細かいルールがあります。

全国チェーンのコンビニエンスストアが、京都ではおなじみの看板の色を茶色系の落ち着いたデザインに変えていることからも、その徹底ぶりがわかるはずです。

手続きをスムーズに進める鍵は、京都市との「事前相談」

景観条例に関する手続きは、建築基準法にもとづく建築確認申請とは別に行います。

新築や増築、大規模な修繕などを行う場合、工事に着手する30日以上前に「景観計画区域届出書」を市に提出し、計画内容が条例に合っているかの審査を受けなければなりません。

ここで最も重要なのが、京都市との「事前相談」です。

届出を出す前に、設計図などを持って市の担当窓-へ相談に行くことで、計画の早い段階で専門的なアドバイスがもらえます。

特に規制の厳しいエリアでは、この事前相談が事実上必須となっており、計画をスムーズに進めるための鍵になります。

万が一、条例に違反すると、市から改善の指導や工事の中止命令が出されるだけでなく、罰則が科される可能性もあります。

過去には、無許可で建物を改築した業者に対し、行政が強制的に建物を元に戻す「行政代執行」が行われた厳しい事例もあります。

こうした事態を避けるためにも、計画の初期段階から専門家と連携し、行政と丁寧に対話することが、京都での家づくりを成功させるための鉄則です。

相談窓口は、京都市役所の「都市景観課」です。

景観条例だけじゃない。京都の家づくりで本当に考えるべき3つの条件

景観条例のルールはご理解いただけたでしょうか。

しかし、京都で本当に快適で価値ある家を建てるには、もう一歩踏み込む必要があります。

ここでは、条例の条文には書かれていない、京都ならではの家づくりを左右する3つの「条件」について解説します。

1. 盆地特有の気候:夏の蒸し暑さと冬の底冷え

「京の夏は蒸し風呂、冬は底冷え」。

この言葉が示すように、三方を山に囲まれた盆地である京都の気候は、とても厳しいことで知られています。

夏は、湿気と熱気が市街地にたまり、夜になっても気温が下がらない寝苦しい日々が続きます。

一方で冬は、放射冷却によって体の芯まで冷えるような厳しい寒さです。

こうした気候の中で一年中快適に暮らすためには、建物の断熱性を高めるのはもちろん、むやみに気密性を上げるだけでなく、建物全体の空気の流れを設計し、自然の風をどう取り込み、夏の日差しをいかに遮るか、といった設計上の工夫がとても重要になります。

2. 土地の個性:「うなぎの寝床」での光と風の採り入れ方

京都市の中心部を歩いていると、「うなぎの寝床」と呼ばれる、間口(道路に面した幅)が狭く、奥行きが非常に長い独特の敷地を多く見かけます。

これは、江戸時代に間口の広さで税金が決められていた名残とされています。

こうした敷地では、建物の両側が隣の家に近いため、横からの光や風がほとんど期待できません。

「家の奥は昼間でも薄暗い」「風が通らず夏は熱がこもる」といった問題が起こりがちです。

この課題を乗り越えるためには、空から光を取り入れる「天窓(トップライト)」、建物の中央に小さな中庭である「坪庭」を設ける、あるいは「吹き抜け」を作って上下に風と光の通り道を作る、といった設計の工夫が欠かせません。

3. 暮らしの調和:京都らしい趣と現代の機能性の両立

せっかく京都に家を建てるなら、格子や瓦屋根といった和の趣を取り入れたい、と考える方は少なくないでしょう。

しかし、現代の暮らしに必要な機能性も、もちろん妥協はできません。

「冬でも暖かい高断熱な家にしたい」

「家事のしやすい動線や、開放的なLDKが欲しい」

「エアコンや太陽光パネルも付けたい」

こうした現代の暮らしの要望と、伝統的なデザインや景観とのバランスをどうとるか。

これも、京都の家づくりにおける大きなテーマです。

たとえば、高性能なエアコンを付けたくても、室外機の置き場が景観を損ねてしまう、という問題は実際に多く聞かれます。

美しい趣と、現代的な快適さ。

この二つを高いレベルで両立させることが、京都の家づくりを成功させる鍵なのです。

制約を価値に変える設計の考え方「伝統とモダンの融合」

景観条例、厳しい気候、土地の制約、そして現代の暮らし。

これらの複雑な条件をすべて満たし、むしろ価値へと変えるのが、私たちが提案する「伝統とモダンの融合」です。

昔ながらの知恵と最新技術をどう組み合わせ、京都に合った住まいをつくるのか。その考え方をお伝えします。

「伝統」の知恵を借りる。町家の工夫を現代の住まいに

エアコンもなかった時代、京都の人々は自然の力をうまく利用するための知恵を住まいに取り入れてきました。

それらは、現代の家づくりでも大いに役立ちます。

  • 深い軒(のき)
    夏の厳しい日差しが室内に入るのを防ぎ、冬の暖かい日差しは部屋の奥まで届ける。まさに天然のエアコンです。
  • 通り庭・坪庭
    家の中に風の通り道をつくり、熱気を逃がします。暗くなりがちな家の中心に光を届ける役割も果たします。
  • 格子戸
    外からの視線を遮ってプライバシーを守りながら、光と風を程よく取り込む、機能的なデザインです。
  • 珪藻土や漆喰
    湿気を吸ったり吐いたりする「調湿効果」で、蒸し暑い夏も乾燥しがちな冬も、室内を快適な湿度に保ってくれます。

こうした伝統的な町家の知恵は、見た目が美しいだけでなく、京都の気候風土に根ざした知恵なのです。

そして、これらの要素は景観条例でも推奨されるため、積極的に取り入れることで、条例の基準を満たしやすくなるという利点もあります。

現代の技術:パッシブデザインで実現する快適な室内環境

伝統の知恵に、現代の建築技術を組み合わせることで、住まいの快適性は格段に上がります。

その中心となるのが「パッシブデザイン」という考え方です。

これは、特別な機械に頼るのではなく、建物の設計そのものを工夫して、太陽の光や熱、自然の風といったエネルギーを最大限に活用し、心地よい室内環境をつくる設計手法です。

自然素材とパッシブデザインの融合

私たち片山工務店は、単に断熱材の性能数値で家を覆うのではなく、京都の気候を知り尽くした上で、自然素材が持つ調湿性や、太陽・風といった自然エネルギーを最大限に活かす「パッシブデザイン」を組み合わせることを大切にしています。夏は深い軒で日差しを遮り、冬は暖かい日差しを室内に取り込む。そうすることで、エアコンだけに頼らない、一年中気持ちのいい室内環境をつくります。

健やかな空気環境をつくる計画換気

自然の力を活かすパッシブな設計を基本としながら、室内の空気を健やかに保つための「計画換気」も組み合わせます。機械に頼りすぎず、建物全体の空気の流れを穏やかに設計することで、常に新鮮な空気が保たれ、結露やカビの発生も防ぎます。

これらの技術によって、「夏の暑さ、冬の寒さ」「結露」「光熱費」といった、多くの人が抱える住まいの悩みは大きく軽減されます。

伝統の知恵と現代の工夫、その融合が京都の家を豊かにする

昔ながらの知恵と、現代の暮らしやすさ。

この二つが融合したとき、京都での家づくりはもっと豊かになります。

たとえば、町家の知恵である「坪庭」を設けて、家の奥まで光と風の通り道をつくる。

そして、その開口部には現代の断熱の工夫を凝らした高断熱サッシを設置し、冬の寒さや夏の暑さを和らげる。

このように、見た目の美しさだけでなく、機能の面でも伝統と現代の長所をうまく組み合わせる。

外観は京都の歴史ある街並みに静かに寄り添い、一歩家の中に入れば、自然の力を活かした、心から安らげる健やかな空間が広がっている。

そんな住まいこそが、私たちが考える京都の家づくりの一つの答えです。

景観条例は、守るべき大切なルールです。

そして、厳しい気候や土地の制約は、むしろ豊かな暮らしを生み出すためのヒントになります。

先人が培ってきた知恵と、それを現代に活かす設計の工夫。この二つを掛け合わせることで、京都でしか味わえない暮らしの価値を、きっと見つけられるはずです。

「景観」と「心地よさ」を両立した、片山工務店の家づくり実例

私たちの「伝統とモダンの融合」という考え方は、お客様一人ひとりの暮らしへの想いがあってこそ、形になります。

ここでは、「景観」と「心地よさ」を両立した、2つの住まいをご紹介します。

【実例1・Y様邸】狭小地の暗さと結露を克服。光と風がめぐる快適リノベーション

築20数年の建売住宅にお住まいだったY様ご一家。

悩みは、隣家からの視線が気になって昼間でもカーテンを開けられない暗さと、冬場の結露でした。

私たちが提案したのは、道路側にプライバシーを守るための目隠し塀と、光を取り込むウッドデッキテラスを設けるプランです。

これにより、Y様邸は「カーテンがなくても自然光がたっぷり入る、明るく開放的な家」に生まれ変わりました。

内装には無垢のフローリングと、調湿効果の高い「ルナファーザー」という壁紙を採用。

断熱性能も根本から見直したことで、「以前悩まされていた結露が全くなくなり、10年経った今でも本当に綺麗です」との声をいただいています。

「カフェのようなおしゃれな空間にしたかった」というご夫妻の理想を叶え、デザイン性と快適性を両立。

「家が快適になりすぎて、以前より外出しなくなりました(笑)」という言葉から、暮らしの変化がうかがえます。

【実例2・F様邸】自然素材が香る和モダンな新築。一年中、心安らぐ家

子育てを終え、築30年以上の住まいを建て替えられたF様ご夫婦。

新しい家に求められたのは、「ホッと安らげる居心地のよさ」と「自然素材を使った京都らしい家」でした。

周囲ののどかな風景に溶け込むよう、外観は切妻屋根に和瓦、外壁には焼杉板と塗り壁を使い、落ち着きのある和モダンなデザインに。

内装は無垢の杉板やエコクロスなど、化学物質を極力使わない自然素材で仕上げました。

もっとも大きな変化は、断熱性能の向上による室内の快適さです。

「夏、外から帰ると家の中がスッと涼しく、冬は夜中にトイレに起きても寒さを感じない。暮らしの中の温度差によるストレスが完全になくなりました」とF様。

化学物質に敏感なご親族からも「この家は空気が爽やかで、頭が痛くならない」と喜ばれ、「暮らしの中で感じていたストレスが全部なくなった。本当に建て替えて良かった」と、心からの安らぎを実感されています。

まとめ:景観条例の「京都らしさ」を活かす、これからの家づくり

京都の景観条例は、一見すると厳しい制約に思えるかもしれません。

しかし、この記事でお伝えしてきたように、条例は街の美しい景観を守るための大切なルールであり、同時に、京都の気候や土地の特性を活かした家づくりのヒントにもなります。

大切なポイントを、もう一度おさらいします。

この記事のまとめ
  • 京都の家づくりは、まず景観条例の正しい理解から。
  • 条例に加え、京都特有の気候や土地の条件も考慮する。
  • 課題解決の鍵は「伝統」と「最新技術」の融合にある。
  • 景観と快適さを両立した暮らしは、実現できる。

条例や土地のこと、そして何より、あなたご自身がどんな暮らしをしたいか。

これらすべてをトータルで考えていくのが、京都での家づくりです。

もし、条例のこと、土地のこと、そしてご自身の暮らしのこと、少しでも迷うことがあれば、私たちに声をかけてください。

私たち片山工務店は、この京都の地で50年以上、お客様一人ひとりの想いに寄り添い、自然の力を活かした家づくりを続けてきました。

あなたの家づくりへの夢や不安、どんな些細なことでも構いません。

どんな些細なことでも、まずはお聞かせいただけると嬉しいです。

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